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横浜家庭裁判所 昭和54年(少)6297号 決定

少年 D・K(昭三五・一〇・一〇生)

主文

少年を横浜保護観察所の保護観察に付する。

理由

(非行事実)

少年は

第一  昭和五三年七月末ころからいわゆる暴走族○○○の集会に参加していたものであるが、同年八月二〇日ころの午前四時こる、神奈川県藤沢市○○○○××丁目××番××号・○○○レストランハウス内の休憩室において、前夜暴走族の集会で知り会つたB子(当時一七歳)に対し、シンナーを吸わせたうえ互いに婚姻の意思もないのに肉体関係を持つなど自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖があり、その性格、環境に照らして将来罪を犯す虞れが十分認められる

第二  昭和五四年八月九日午後一一時ころ、神奈川県藤沢市○○○○××丁目××番××号私鉄○○○線○○駅ロータリー内において、A他二名に対し、同人らがみだりに摂取し、若くは吸入し、又はこれらの目的で所持することの情を知りながら政令で定められた興奮、幻覚又は麻酔の作用を有する劇物トルエン約一八ミリリットルを授与したものである。

(法令の適用)

第一の事実につき少年法第三条第一項第三号ニ

第二の事実につき毒物及び劇物取締法第三条の三、第二四条の二第一号

(虞犯と認定した理由)

昭和五四年(少)第三九一五号事件(以下単に本件という。)昭和五四年六月一一日付検察官作成の送致書(犯罪事実については同年五月二六日付司法警察員作成の少年事件送致書記載の犯罪事実引用)によると、

少年は、昭和五三年八月二〇日ころの午前四時ころ神奈川県藤沢市○○○○××丁目××番××号○○○レストハウス内の休憩室において、暴走族の集会で知り会つたB子(当時一七歳)に対しにわかに劣情を催し「おめえやつたことがあるんだつたらいいじやねえか」と申しむけ、その場に同女を押し倒して組み伏せパンティーを押し下げようとしたが、同女が足を組んでこれを防ぎ抵抗するや語気を強め「やらせなかつたら無理にでもやることはできるんだ」と申し向け、同女の顔面を小突き大腿部を膝蹴りする等の暴行を加えさらに「俺の知つている○○系のやつだつて女を売りとばしたことがあるんだから頼めばお前だつて売りとばすことができるんだぞ」と脅迫し、その反抗を著しく困難ならしめて強いて同女を姦淫したものである。

旨の強姦保護事件として送致されたものであるところ、当裁判所は、審判の結果右送致事実を認定せず、上記のとおり虞犯事由に該当するものと認めたのであるが、その理由の要旨は以下のとおりである。

すなわち本件被害者B子は司法警察員に対する供述調書、被害届及び告訴状において、右送致事実に副う供述をしているのに対し、本少年は逮捕時の弁解録取書、勾留質問調書、司法警察員に対する供述調書(二通)を通じ一貫して本件レストハウスの休憩室における肉体関係が和姦である旨を主張し、当審判廷における供述においてもこれを維持しているところ、密室における行為であるため第三者の供述の得られない本件においては、まず被害者の供述の信用性ないし真実性が検討されなければならない。

少年の司法警察員に対する供述調書(二通)、少年の当審判廷における供述、被害者の友人であるC子の司法警察員に対する供述調書によれば、当夜暴走族の集会から車で本件現場であるレストハウスに向つたのは少年を含め男性四人と被害者ら女性二人であり、レストハウスに到着後意気投合したC子と男性一名の一組が個室に入り、そこで肉体関係を結んだこと、少年及び被害者はその男女が連れ立つて個室に入るのを見ながら別の個室に入り、和姦か強姦は別として、そこで肉体関係を持つたことは動かし難い事実であり、被害者も男女二人ずつ組になつて個室に入つた事実は認めながら、少年及び被害者が二人だけで個室に入つた理由につき合理的な説明をしていないなど、被害者の供述にはその真実性の点においてやや疑問が存しないわけではない。しかも、本件事件記録によれば本件捜査は事件発生後約九ヵ月経過して開始されたものであるばかりでなく、その端緒は被害者の友人であるC子に対する虞犯事件に関連し本件被害者の虞犯行為が判明したため、同人を昭和五四年四月二二日神奈川県○○○警察署に招致し補導した際本件被害者事実を申し立てたことによるものであり、被害者自ら自発的に警察署に出頭して申告に及んだものではなく、本件告訴も少年及びその保護者側の関与なしに告訴の日の約一ヵ月後に取下げられていることなどの事実が認められる。以上の諸事情に鑑みると本件被害者の供述は、その信用性ないし真実性の点においていささか欠けるところがあるものといわざるを得ず、これにより本件送致事実を認定することはできない(本件において更に送致事実の存否を究明するためには職権による被害者の証人尋問が考えられるところであるが、本件被害者は未成年であり、本少年との再会を嫌つており、その保護者も被害者が本件当時重ねていた不良交友から立ち直り、現在はまじめに高校生活を送つているところから、できるだけ本少年との接触は避けたい意向であることが窺われ、このような場合未成年者である被害者に証人として協力を求めることは、被害少年の名誉、情操の保持及びその健全なる育成の見地から適切を欠くものであるので、当裁判所は職権証拠調べを行なうことは相当でないと判断した。)。

以上の次第で、本件送致事実を認めるに足る十分な証拠がないのでこれを認定せず、結局前記認定のとおり虞犯事実に該当するものと判断したものである。

(要保護性)

少年の非行の態様ならびに性格環境等に鑑み、相当期間保護観察に付することが少年の健全な育成を期するため必要であると認められる。よつて少年法第二四条第一項第一号、少年審判規則第三七条第一項を適用して主文のように決定する。

(裁判官 小磯武男)

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